世界一読む価値のないモノ

どーでもいいこと、テキトーかつ気まぐれに書いていきます。時間をどぶに捨てたい方はぜひ。

【短編小説】二択

 ケイ氏が自宅でくつろいでいると、玄関のベルが鳴った。ベルを鳴らしたのは黒いスーツを着た、ケイ氏の知らない男だった。

「こんにちは。私、ヘロンという会社の者ですが、今日は新製品の紹介に来たのですが……。」

「ヘロン? 聞かない名だな。何の会社だ?」

聞くと、最近新しくできた会社らしい。そして今回、その会社の製品第一号を持ってきたというのだ。三日間、無料で機械を貸してくれるらしい。機械というのは腕時計よりは大きいが小さい厚い板状のもので、鉄でできていた。

「この小さい穴に向かって質問をしてください。コンビニに行くべきかどうか、などといった次にとるべき行動はこれでいいのかどうかという質問です。そして、このLEDが光ったら、その行動をとり、光らなければ、その行動を控えてください。では、三日後、また参らせていただきます。なお、この機械のことは他言無用でお願いします。理由は三日後に。」

男はそういうと機械を置いて帰って行った。

 ケイ氏は早速、質問をしてみた。「明日、彼女を遊園地に誘うべきかどうか」という質問だ。LEDは光らなかった。おなかがすいたので「近所のカツ丼屋に行くべきかどうか」という質問もしてみた。光ったので行ってみたら、行く道の途中で千円札を拾った。翌日の夜、テレビのニュースをみてみると、遊園地の事故が報道されていた。どうも、この機械に従うと、いいことが起こり、嫌なことを避けられるようだ。その他、機械の指示に従うことでいろんないいことが起こったし、確認はできていないが、いろんな災いをさけたのだろう。

 そんなこんなで三日後になった。黒スーツの男がやってきた。

「いかがでございましたか、わが社の製品は。」

「すばらしい。この機械に従えば、幸せになれそうだ。いったいどんな仕組みです?」

「そうでしょう。わが社自信作ですから。最近のネットは優れていますからね……いや、仕組みは企業秘密です。大手企業に真似されてはすぐにわが社は倒産ですから。ところで他言無用のわけは……」

「だいたいの予想はできます。幸せというものは種類によっては大勢の人が同時に得られないものですから。」

「その通りです。大勢の人がこの機械を持てばこの機械は正しく作動しなくなってしまうのです。……あの、お金のことなのですが少し高くて……。」

「かまわない。いくらだ? 買おうじゃないか。」

ケイ氏はこの三日の機械の実績を信じてすぐに購入を決めた。そして黒スーツの男は帰っていった。

 

 アイ氏の家。黒スーツの男がベルを鳴らすとアイ氏がでてきた。

「三日たちましたので、参らせていただきました。どうでしょう、わが社の製品は。」

「ふざけるな。あの機械に従ったら、妻と喧嘩になるし、事故にあって愛車は傷々になるし。」

「そうでしょう。この機械はそういうものなのです。光ったとき、その行動を行えば不幸になるのです。」

「そんなものを私に……ふざけるな!」

「まぁ、落ち着いてください。逆に考えてください。光ったときにその行動を行わなければ不幸を避けることができるというわけです。」

「それもそうだが、外食すべきかをこの機械に問いて光ったとき、従うのが面倒で家で料理しようとしたが、包丁で手を怪我した。これはどういうわけだ。」

「おそらく、外食に行けば、行き帰りの道で事故にあって手の怪我だけではすまなかったのかもしれません。まさか、ここまでこの機械が正確とは思わず、三日だけ不幸を味わってもらおうとしてしまってすみません。お詫びといっては何ですが、値段は多少安くさせてもらいます。それでも高いですが……。」

「不幸を避ける機械か。よし、買おう。」

どれほどの不幸を避けることになるのかは身を持って知っている。アイ氏は購入を決めた。

 

 夜遅く、黒スーツの男は自宅でくつろぎながら、ボソッとこうつぶやいた。

「声に反応して作動し、気まぐれに光る……。こんな鉄くずがこんなに高く売れるとはな。」